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天敵についてちょっと詳しくなるための5冊

Book Agriculture Entomology

農業において単に「天敵」というと、昆虫に対する天敵の昆虫を指す場合が多い。
ほんの十数年まで、天敵を利用した農業というのは、教科書には一応乗っているのだが、一体どこでやっているのかよく分からない、というような代物だった。
しかし、現在の状況はだいぶ変わってきていて、市販の天敵のラインナップは大分増え、新しい天敵農薬が一般のニュースに取り上げられたりする(「飛ばないテントウムシ」開発 アブラムシ駆除の切り札 - MSN産経ニュース)。
が、状況の変化が早かったので、いろんな情報が錯綜している。天敵はそもそも使えるのか、使えないのか、どう使ったらいいのか、等々の疑問があろうかと思う。なんかその辺いい本無いのかちょっとまとめろとこの前言われたような気がする。そこで、5冊ほど本棚からピックアップしてみた。

根本久「天敵ウオッチング - 虫たちの戦争と平和

趣味の園芸」に1995年4月号から連載されていたコーナーを再構成したもの。20年近く前の本であるが、その頃の天敵を取り巻く状況というのは、冒頭にあるような「天敵を利用した農業とは一体…」といったようなものである。市販天敵の市場規模も小さく、現在のように天敵を商業的に利用するということがそもそも可能なのか、やっぱり無理なんじゃないか、そんな話がされていた時代である。
なので、今役立つかというとちょっと微妙。また、月刊誌のコーナーだったために体系的に整理されていない。しかし、その分難しい話は少ないし、1話完結で読みやすい。
また、天敵利用に関する歴史背景はだいたいこれで抑えられる。背景を抑えておくとテンションが高く保てる(気がする)ので最初の一冊に挙げた。
ただ、絶版から時間がたってAmazonだとちょっとプレミアついてるし入手が難しいかもしれない。そんな無理して入手するほどの内容ではないので、安い古本が手に入ったとか図書館に寄ってみたとかそんな時にどうぞ。

天敵ウオッチング―虫たちの戦争と平和

天敵ウオッチング―虫たちの戦争と平和

和田哲夫「天敵戦争への誘い」

この本は「農耕と園芸」に2000年から3年間連載された記事をまとめたもの。2000年というと、カブリダニ類を始めとする市販天敵の利用面積が急激に増加してきた頃の話である。その他にもトマトやナスの受粉にマルハナバチが利用され始めたり、「プリファード水和剤*1」や「マイコタール」といった微生物殺虫剤が上市されたりしている。
要するに、「天敵や訪花昆虫を商業的に利用する」ということが始まった時期である。
なので、読んでるととてもワクワクするしテンションが上がる。が、基本的にはそれだけである。

天敵戦争への誘い―小さな作物防衛隊の素顔とは?

天敵戦争への誘い―小さな作物防衛隊の素顔とは?

桐谷・志賀「天敵の生態学

ちょっと時代が戻るが1990年の本である。この本はかなり生態学寄りのスタンスで書かれていて、農業に関して直接的な記述はあまり無い。しかし、天敵を使うということはほ場の中の中の生態系を自分の都合が良い方向へコントロールするということで、生態学的な視点が有るか無いかで状況に対する理解度がかなり変わってくる。例えば、施設栽培という閉鎖的な環境下ではロトカ・ヴォルテラモデルにより予想されるような天敵と害虫の個体数変動が実際に観察できるし、天敵はそこそこ居るのに害虫密度を抑えきれない(エスケープ)といった現象も体験できる(したくはないが)。
なお、そんな感じで役に立つ生態学の知識を得られるのは最初の18ページだけで、残りはいろんな事例の紹介の寄せ集めなのでただ面白いだけである。「輪」を作って土壌中のセンチュウを捕まえて食べてしまうカビの話なんかとっても面白い。

天敵の生態学

天敵の生態学

仲井ら「バイオロジカルコントロール - 害虫管理と天敵の生態学 -」

完全に教科書だが、2009年なので内容的にはかなり新しい。最近流行している天敵利用のやり方として土着天敵の活用があるが、その辺の記述も多い。もっとも「採集→自家増殖」までは載ってなくて、「採集→放飼」程度ではあるが。また、植生管理や環境制御に関する記述もある。環境に関する天敵の反応を知らないと、害虫を増やすばかりになることも多いので重要である。例えばカブリダニ類は極端な高温と少々の乾燥に弱いため、ハダニが増殖しやすい環境だとハダニの天敵のカブリダニは十分な能力を発揮できない。つまり「ダニだから暑くて乾けば増えるだろう」と考えてそのように管理、あるいはそのような時期に放飼してしまうと、害虫のハダニばかり増えて上手くいかないのである。

バイオロジカル・コントロール―害虫管理と天敵の生物学

バイオロジカル・コントロール―害虫管理と天敵の生物学

矢野栄二「天敵 生態と利用技術」

上の本、「完全に教科書」とか書いてしまったが、ソフトカバーである。ソフトカバーの教科書というのは大体お手軽版で、読みやすいが、そのためにどこかが省略されている。
一方でこの本はハードカバーである。範囲的には上の一冊とそんな変わらないのだが、データと数式が多い。例えば、相対湿度に対してカブリダニの捕食量がどのように変化するのか、害虫を絶滅させるには、最低どれだけの天敵が必要なのか、そういったことを、データや数式を用いて確認したり、予想したりできる。
データや理論は所詮は机上のものだが、経験のみで語るより、経験と理屈を合わせて語ることで説得力がずっと増す。
ただ、数式をそのまま出したりすると大変嫌がられるので絶対にやってはいけない(経験のみによる談)。

天敵―生態と利用技術

天敵―生態と利用技術

*1:残念ながら近年生産停止となった