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害虫の防除と昆虫の色覚

Agriculture Entomology

昆虫の色覚

ヒトは青(420nm)、緑(530nm)、赤(560nm)付近にピークを持つ3種類の視細胞(錐体細胞)を持ち*1、概ね400〜760nmの波長の光を可視光として見ることができる。この視細胞からの情報が合成されて色覚が作られるのだから、光の三原色は「青・緑・赤」となる。
一方で昆虫は種類により多少異なるが、多くは紫外線(340nm)、青(463nm)、緑(530nm)にピークを持つ視細胞を持っており(カッコ内の数値はミツバチの値)、ヒトの可視光領域に比べると昆虫の可視光領域は短波長側に100nmほどずれている。すなわち、昆虫にとっては赤色は見えない(ヒトが赤外線を見えないのと同様に)が、その代わりに紫外線(もちろん、すべての領域ではないが)を見ることができる(ヒトが紫を見えるように)。よって、昆虫にとっての光の三原色は「紫外線・青・緑」なのである。

色に対する反応と防除への応用

「飛んで火に入る夏の虫」という言葉があるように、昆虫の中には光への走行性を示すものがある。これを利用した電撃殺虫器の類は、市街地でも見かけることがあるだろう。
「虫送り」と呼ばれる行事がある。これは、夕方から夜にかけて松明を持って集まり、鐘や太鼓を打ち鳴らしながらあぜ道を練り歩き、害虫駆除を祈願する行事である。古くは室町時代末期に記録が残されており、現在でも伝統行事として残っている地域がある。これは光を利用している防除の初歩的なものと見ることもできるが、明治の初め頃まで、農民にとって虫害というのはたたりや天災の一種であり、「虫送り」は宗教的な祭礼としての意味が強かったものと思われる*2。しかし、明治10〜20年ごろには油を張った水盤を下部に備えた行灯を誘蛾灯として利用していたという記録もあり*3、光により害虫が誘因駆除できるという考えは古くからあったことがうかがえる。
光への誘因は昆虫の種類により有効な波長が異なる。
例えばニカメイガは近紫外線(330〜400nm)に強く誘引され、これを利用するための青色蛍光灯が東京芝浦電気(現在の東芝)により開発され、1948年には国内の全水田面積の12%に相当する34万haの水田に導入されたという。ただし、これは1953年にパラチオン剤が普及したことでその後利用は急減した。
また、ハスモンヨトウやオオタバコガなどのヤガ類は、長波長の光が複眼に入ると暗適応が妨げられ、結果として夜間の活動が抑制される。特に580nmにピークを持つ黄色蛍光灯が活動を妨げることが知られており、防蛾灯として利用されている。現在はLEDを利用した商品も発売されている。
その他、アザミウマ類やアブラムシ類、コナジラミ類、ハモグリバエ類といった昆虫は、飛び立ちに紫外線を利用しており、紫外線を除去された環境下では飛翔行動が抑制され、分散が遅くなる。この性質を利用するため、農業用施設の被覆資材に紫外線除去フィルムが利用される場合がある*4
上記の話をまとめると下図のようになる。
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光の反射による防除への応用

全ての昆虫にある訳ではないが、多くの昆虫は複眼の間に単眼と呼ばれる3つの独立した眼を持っている。下の写真は庭に居たカマキリの頭部であるが、3つの単眼を確認できるだろう。単眼は複眼とは形も大きさも全く異なる。
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単眼はものの形を見分けることは出来ないが、明暗の感知能力に優れ、また複眼に比べると反応速度が早い。この単眼は、「空と陸とのコントラスト」を見分けるのに使っていると考えられている。すなわち、どちらが空であるか?地面であるか?を素早く見分けることで、飛翔中の姿勢制御を行っているのである*5
そこで、もし地面などの空以外の部分が強く輝いていたらどうなるか。昆虫はどちらが空であるかをうまく判断できず、飛翔行動を強く撹乱されてしまう。
これを利用し、シルバーテープの設置やシルバーマルチの利用が行われている。また、畑の周囲に反射性の強いタイベックマルチ等をある程度の幅で設置することでも害虫侵入防止効果があることが知られている。

*1:4種の錐体細胞を持つヒトもいるという話だが(参考:4色型色覚 - Wikipedia)。

*2:害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)

*3:新応用昆虫学

*4:糸状菌の中には胞子の発芽に紫外線を必要とするものがあり、一部の糸状菌病害抑制効果も期待できる。しかし、着色に紫外線が必要なナスなどの作物では利用できない。また、ミツバチの行動にも影響するため、ミツバチを利用するイチゴ等の作物でも利用できない。

*5:この辺りの話は昆虫―驚異の微小脳 (中公新書)に詳しい