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スペインの施設園芸

スペインにはハウスがたくさんある

昔作った資料をもとに話す機会があったので、スペインの施設園芸について手持ちの文献を再度調べていた。

スペインの南部のアルメリア県にはハウスが集中している地域がいくつかあって、特にアルメリア市の西部に位置するアドラ市とエルエヒド市を中心とするエリアは明確にハウスが密集している。衛星写真に切り替えて確認してみてほしい。

このエリアの施設面積だけで2万haあると言われており、日本全国の施設面積の1/3程度に相当する。

スペインの施設はブドウの棚から発展した

この地域でこのように施設園芸が普及するまでの経緯が面白い。もともとこの地域はブドウ(ワイン用ではなく生食用だったそうだ)の栽培が盛んで、棚仕立てでブドウを栽培していたのだが、ある時生産者がこの棚の上にビニールを載せることでその下で色々な野菜を作れる、ということに気付いたそうだ。

そこから施設園芸が広まったので、ハウスの形状も独特であった。今もこの地域で最も普及しているハウスはRaspa y Amagado(ラスパ・イ・アマガド)と呼ばれるもので、ベースはビニールの載ったブドウの棚なのだが、雨水を排水するために屋根がゆるくギザギザと波打っている。Raspaは魚の骨、Amagadoは屈曲を意味し、天井部の高い部分がRaspaで谷になっている部分がAmagadoなのだそうだ。

この話を「施設と園芸」の2012年の夏号(No.158)で読んで、一度見てみたいものだ(写真は載っていたがモノクロで分かりにくかった)と思っていたのだが、昨日改めて航空写真などを確認していてそう言えばストリートビューというものがあったと気付き、適当な場所を確認してみたら記事の説明そのもののRaspa y Amagadoを確認することができた。天井部の高い部分はまさに背骨という感じだ。

上に示した場所の場合は最新の写真が2011年7月のものだが、ハウスの中は空っぽだ。この地域では夏は生産物単価が下がるのと、ハウス内部が高温になって作業が大変という理由から基本的に9月から翌年5月までの作型で栽培をするそうだ。同じ場所の2009年1月の写真を遡って確認できるので見てみると、ハウスの中にトマトが植わっているのが分かる。

夏の間は前作の片付けや次作の準備を進めつつビーチで優雅に過ごすそうだ。

ハウスはなんだか安っぽく見える(実際建造費は安いのかもしれない)が、開口部はかなり目合の細かいネットで完全に覆われているのが伺える。出入り口は基本的に二重扉となっており、外部からの害虫の侵入を防止している。中には送風装置を備えて体に付着した害虫を払い落とすような仕組みを備えた施設もあるそうだ。日本の先進地域並の装備である。

加えてスペインの農業で特徴的なのは天敵の利用が一般的であるという点だ。天敵利用は高度な技術を必要とするが、ヨーロッパでは有機農業への需要が高いこともあり、天敵利用技術が発達しており、天敵などの生物農薬を生産販売するメーカーも複数ある。販売する苗にあらかじめ天敵を定着しておくということも行われているそうだが、これは生産者の天敵利用に対する深い理解と技術力がなければ到底不可能なことだ。天敵利用に関しては明らかに日本の先を行っている。

かつては気候に恵まれ安く野菜が生産できるという点だけが利点で、オランダのような施設園芸の先進国は天敵利用技術に先んじていたため、多少値段が高くても有意性を維持できていた。というようなことが古い教科書には書いてある。

そのスペインに天敵利用が急速に広まり、HACCPやグローバルGAPを取得する生産者も続々出てきて施設園芸の先進国も苦しい立場に…というのも少し昔の話で、今ではモロッコやイスラエルが農業新興国として安くて高品質な野菜を輸出するようになっており、今度はスペインの立場も危うくなっているそうだ。

などということが書いてあった記事に関心していたのももう5年も前の話だ。5年もたてば状況も変わっている可能性が高い。また時間をみつけて新しい情報を確認したいところだ。