気体の状態方程式
気体の状態方程式の変形
を、密度を用いて変形すると、
となり、圧力は密度および絶対温度に比例することが分かる。
また、単位質量あたりの体積である比容をもちいると、
となり、比容は絶対温度に比例し、圧力に反比例することが分かる。
普遍気体定数
ボイル・シャルルの法則
より、1kmol分の気体の標準状態の数値であるP:1013.3hPa、V:22400L、T:273Kを代入してKを求めると、8314.3JK^-1kmol^-1という値が得られる。
これはで表され、普遍気体定数と呼ぶ。
熱力学の第一法則
気体の内部エネルギー
気体では分子同士の距離が長いので、分子間力はほとんど無視できる。
よって、気体の場合の内部エネルギーとは分子のもつ運動エネルギーと考えてよい。
分子の運動エネルギーは温度に依存し、高温ほど大きくなる。
熱力学の第一法則
気体に加える熱量を、仕事に使われるエネルギー変化量を、気体の内部エネルギー変化をとして、次の関係が常に成り立つ。
これを熱力学の第一法則と呼ぶ。
空気に加えられた熱量は温度上昇と膨張に使われるということを意味する。
断熱圧縮と断熱膨張
外部との熱のやりとりなしの変化を総称して断熱変化と呼ぶ。熱力学の第一法則ではΔQ=0となる。
- 断熱圧縮:熱のやり取りなしの圧縮。空気塊が下降するときに相当。圧縮はΔWの減少に相当するので、その分ΔUが大きくなる=温度が上昇する。
- 断熱膨張:断熱圧縮と逆でΔUが小さくなるので温度が下降する。空気塊の上昇に相当。
乾燥空気の定圧比熱と定積比熱
- 定圧比熱:圧力が一定のまま熱量を与えた時、単位温度を上げるために必要な熱量。与えられた熱量は温度上昇と膨張の両方に使われる。定圧比熱は1004JK^-1kg^-1である。
- 定積比熱:体積が一定のまま熱量を与えた時、単位温度を上げるために必要な熱量。与えられた熱量は全て温度上昇に使われる。定積比熱は717JK^-1kg^-1である。
定圧比熱と定積比熱の間には、
というように差が乾燥空気の気体定数になるという関係がある。
静力学平衡
静力学平衡とは
静止している大気中にある、単位底面積上の大気柱を考える。
大気柱の中の高さzからΔzまでの空気塊に注目する。空気塊の下部では下面から圧力Pを受けており、上部では圧力P+ΔPを受けている。
下面の圧力は空気塊の重さ分だけ大きくなるため、ΔPは負の値となる。
具体的には、空気塊の体積に密度と重力加速度を乗じた値に等しい。空気柱は底面積が単位面積であるので、密度、重力加速度、高さの積が空気塊の重量 = 圧力差となる。式で表現すると、
この式を静力学の式と呼ぶ。
文章で表現すると、「ある高度における気圧は、それより上にある大気の重さに等しい」ということでもある。
静力学の式が成り立っている状態を静力学平衡の状態と呼ぶ。
地球大気と静力学平衡
大気現象は水平方向のスケールは数千kmに達するが垂直方向はせいぜい十数kmである。台風のような激しい現象を除けば、水平スケールの運動のみで大気現象をよく近似できる場合がある。
低気圧や高気圧のように水平スケールが概ね2000km以上に達する現象を総観規模の擾乱と呼ぶ。総観規模擾乱では静力学平衡が成り立っていると考えることができる。総観規模擾乱の解析では全球モデル(GSM)という数値予報の計算方程式も使用される。
水平スケールの小さな気象現象では静力学平衡は成り立たない。積乱雲などがそれに当たる。こうした事情もあり、現在の数値予報では非静力学平衡モデルも運用されている。
静力学平衡の応用
地表付近の空気密度は概ね1.2kg/m^3である。これに重力加速度の近似値10m/s^2を代入して静力学の式に代入すると、10mの上昇で1.2hPa気圧が下がることが分かる。
ここから近似的に上空の気圧を計算できる。850hPa程度の高度まではこの計算で概ねの計算ができる。
海面更正と層厚の式
静力学の式から気体の状態方程式を用いて密度項を除去すると、
となる。この式を海面更正の式と呼ぶ。
ΔZ間の平均気温をTm、平均気圧をPmとして、ΔZについて式を整理すると、
これを層厚の式と呼ぶ。層厚の式より層厚=大気の厚さは平均気温に比例することが分かる。
また、静力学の式の一般形
を積分してZについて整理すると、層厚の式を対数で表した次の式が得られる。
この式は測高公式と呼ぶ。P_1=0として平均気温(もしくは中間点の気温を用いる)がわかっていればP_2における高度が求められる。
ただし、この式は乾燥空気に対するものであるため、湿潤空気を対象とする場合は混合比rを用いて計算する仮温度
を用いるとより正確である。ただし、いずれにせよ層厚が厚い場合は精度が落ちる。
層厚の式を用いた高度をジオポテンシャル高度と呼ぶが、実用上は通常の高度と考えて問題ない。
大気の気温減率
乾燥断熱減率
乾燥空気が上昇すると断熱膨張を起こすため、膨張という仕事を行った分だけ内部エネルギーが消費されて気温が下がる。
その割合は0.976K/100mで、100mの上昇で約1K気温が下がる計算になる。
0.00976K/mはで表し、乾燥断熱減率と呼ぶ。
湿潤断熱減率
湿潤空気の気温が下がると飽和水蒸気圧が下がるので、いずれ凝結が起きる。凝結が起きる際には潜熱が放出されるので空気塊は加熱される。
飽和した空気塊が上昇する際には、凝結により気温減率が小さくなる。このときの気温減率を湿潤断熱減率と呼びで表す。
湿潤断熱減率は温度や圧力に依存し、下層で小さく上層で大きい傾向があるが、0.5K/100mがよく使われる。
平均的な気温減率
対流圏の平均的な気温減率は0.65K/100mである。
気温減率でみる大気の安定度
大気の安定度は空気塊を上昇させたときに、その空気塊が上昇するのか、下降するのかで判断する。
- 安定:空気塊を上昇させてももとの高さまで戻るような成層状態。上昇した空気塊の温度が周囲の空気より低くなる場合。気温減率の大きな乾燥空気でこの状態になりやすい。気温の鉛直方向の減率と気温減率を比べると気温減率の方が大きい。
- 中立:上昇させた空気塊が上昇も下降もしない状態。気温減率と気温の鉛直分布が等しい。
- 不安定:上昇させた空気塊がさらに上昇するような成層状態。気温減率の小さな湿潤空気で起こりやすい。気温の鉛直方向の減率が空気の気温減率より大きい。
絶対不安定・条件付き不安定・絶対安定
- 気温減率が湿潤断熱減率より小さい:気温減率が0.5K/100mより小さい場合、上昇した空気塊は必ず周辺空気より低温となり、もとの高さまで戻ろうとする。この状態を絶対安定と呼ぶ。
- 気温減率が湿潤断熱減率より大きく、乾燥断熱減率より大きい:気温減率が0.5K/100mから1.0K/100mまでにある状態。不飽和空気は安定だが、飽和空気は不安定である。この状態を条件付き不安定と呼ぶ。対流圏における平均気温減率が0.65K/100mであるため、成層状態はほとんどが条件付き不安定となっている。
- 気温減率が乾燥断熱減率より大きい:気温減率が1.0K/100mより大きい場合。上昇した空気塊は必ず周辺空気より高温となり、上昇を続ける。この状態を絶対不安定と呼ぶ。
気象状況と大気の安定性の関係
- 条件付き不安定:下層の空気塊が飽和が起きる高度以上に持ち上げられると対流が発生。
- 絶対不安定:晴天日の日中は地表が日射で暖められ、気温減率が大きくなる。このような場合は成層状態は絶対不安定となり、対流活動が活発となる。逃げ水や蜃気楼といった現象が起こる場合もある。
- 絶対安定:放射冷却が強く起きた日の明け方などは地表面付近の気温が低く、場合によっては上層ほど気温が高い逆転層の状態になっている。
温位
空気塊を乾燥断熱変化をさせて1000hPaの高度まで移動させた場合の温度を温位と呼ぶ。温位は通常絶対温度で表す。
例えば、27℃で1000hPaの空気塊の温位は300Kである。
温位は乾燥断熱変化をする限り保存される。湿潤断熱変化をする場合は潜熱による加熱で大きな値となる。
温位でみる大気の安定性
- 安定:温位が高度とともに増加する
- 中立:温位は高度によらず一定
- 不安定:温位が高度とともに減少する
対流圏界面の上層では温位の増加割合が大きくなり、鉛直断面図では等温位線が密集する。これは成層圏以上では大気が極めて安定した状態にあることを表している。
対流混合層と温位
対流によってよくかき混ぜられた大気層を対流混合層と呼ぶ。対流混合層は日射で暖められた地表付近に発生しやすい。
対流混合層があるとき、温位の鉛直分布は鉛直方向に一定となる。
接地逆転層と温位
放射冷却等によって地面が急激に冷やされた場合、上層に向けて気温が高くなる空気層ができる。これを接地逆転層と呼ぶ。
接地逆転層があるとき、温位の鉛直分布は鉛直方向に急激に高くなる分布を示す。
相当温位
相当温位とは
空気塊が含む水蒸気の全てを凝結させつつ、1000hPaまで空気塊を移動させた場合の気温。
湿潤空気では必ず温位よりも大きい値となる。
相当温位は湿潤断熱変化でも乾燥断熱変化でも一定に保たれる。
対流不安定
大気の下層ほど相当温位の高い空気が存在している状態を対流不安定またはポテンシャル不安定と呼ぶ。下層が湿っており上層が乾燥した状態と見ることもできる。
積乱雲が発達しやすい条件でもある。