配当所得を総合課税にするかどうかの話

毎年なんとなくの知識で配当所得を確定申告して総合課税にしているが、きちんと計算をしたことが無かったので計算をした。

※以下の記述は2022/02/26時点の情報に基づきます。

先に結論

  • 配当所得を含める前の課税所得が900万円以上なら、配当所得を総合課税にしても節税はできない。
  • 配当控除を含めた課税所得が900万円未満で、配当所得に配当控除が10%適用できるなら配当所得を総合課税にすると節税できる。
    • 配当控除を含めた課税所得が900万円を超える場合でも節税できることがある。
  • 配当控除を含めた課税所得が330万円未満なら、配当控除の割合に関わらず配当所得を総合課税にすると節税できる。

前提となる知識

まず、配当所得というのは、区分に応じて源泉徴収されている。上場株式等であれば所得税が15%地方税が5%の合計20%が源泉徴収される。なお所得税分には実際には税額の2.1%の復興特別所得税がかかるため実際には15.315%が源泉徴収されているが、以降の説明では省略した。

cf. No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)|国税庁

これは特定口座の源泉徴収あり・なしの区分とは関係ない。特定口座の源泉徴収ありなしは譲渡所得に係るもので、配当所得は常に源泉徴収される。

この源泉徴収されている所得税だが、上場株式の場合は申告の方法を3種類から選択できることになっている。

  1. 申告不要制度
    • 源泉徴収で完結とし、確定申告を行わないもの。他の所得とは合算されない。
    • 申告不要とするかどうかは口座ごとに選ぶこともできる。
  2. 総合課税
    • 所得の金額を給与所得等と合算して所得税額を計算するもの。
    • この場合、一定のものを除き、収入金額に対して一定割合の配当控除を受けることができる。
      • 配当金というのはすでに法人税等が差し引かれた後の額と考えられるため、二重課税を調整するための仕組み。
      • 細かい条件分岐があるが、通常の国内株式に由来する配当で、課税所得の合計が1千万円を超えないなら配当所得の10%が控除額となる。
        • ネット上でよく見るテキストは10%の控除率を前提としたものが多いが、そうではない場合もあるということには注意が必要。例えば投資信託であれば最大5%となる。
      • cf. No.1250 配当所得があるとき(配当控除)|国税庁
    • 確定申告が必要であり、上場株式等の譲渡損失と損益通算ができないというデメリットがある。
    • 住民税について特に手続きを行わない場合、住民税も自動的に総合課税となる。
  3. 申告分離課税
    • 確定申告をするが、他の所得とは合算せずに別で所得税の計算をするもの。
    • 税率は申告不要制度を利用する場合と同じだが、上場株式等の譲渡損失と損益通算ができるというメリットがある。

配当所得を総合課税にすると節税できるケースについてよくある説明

前述のように配当所得からは15%の所得税源泉徴収されている。だが、総合課税における所得税の税率はよく知られているように所得金額に応じて変化する。

例えば課税所得金額が3,299,000円以下の区分であれば、税率は10%であり、この時点で配当所得の源泉徴収の15%より小さい。さらに10%の配当控除が加わる場合であれば、実質的な税率は0%になる。つまり配当所得の15%に相当する額が返ってくることになるので、これは結構大きい。

税率23%の区分までは配当控除10%を考慮すると実質的な税率が13%になるので源泉徴収より低くなる。したがって課税所得が900万円以下であれば、配当所得を確定申告して総合課税にしたほうが良い…という説明がいろいろな場所で見られる。

一方、この基準を695万円以下としているものもある。

これには住民税の税率が関係する(と思う)。

配当所得を確定申告して所得税を総合課税とした場合、特に申告しなければ住民税も総合課税となる。そしてその場合、住民税の税率は配当控除を含めても7.2%(課税所得1000万以下の場合)となり、源泉徴収の5%より高い。7.2%で計算すると、所得税の実質的な税率が13%になっても合計20.2%となり、源泉徴収の20%を超えてしまう。したがって、実質税率が10%となる695万以下でなければ節税効果がない…ということのように思える。

※令和5年分以降は住民税と所得税で異なる課税方式を選択することができなくなりました。

しかし、住民税については所得税と異なる課税方式を選択できる。これについては従前から可能ではあったが、それを明確にすべく平成29年の税制改正で規定が整備されたという経緯がある。

cf. https://www.soumu.go.jp/main_content/000713006.pdf

古い記事は695万円になっているのかもしれない…と思ったが、比較的最近の記事でも異なる課税方式を選択できることについて触れているものは少なかった。理由はよく分からないが、単にあまり知られていなかっただけかもしれない。

所得税は総合課税、住民税は申告不要制度利用、ということをしたい場合、令和2年分までは市区町村に住民税の申告書を提出する必要があった(つまり申告不要制度を使うために申告をする必要があるということで、分かりにくかった。それで知られていなかったのかも)。しかし令和3年の確定申告からは「所得税及び復興特別所得税の申告内容確認票B」の「住民税・事業税に関する事項」欄で所定の場所に○をつけるだけで良くなった(私は住民税の申告書を送付してから気付いた…)。

住民税で総合課税を選ぶと源泉徴収より税率が上がるだけでなく、保険料の算定対象に含まれてしまうというデメリットもあるので、損益通算をしたいなどの理由がなければ基本的には住民税分は申告不要制度を選んでおいたほうが良いと思う。

総合課税にするかの判断基準

冒頭に書いたが900万円とかの基準は絶対ではない。

考えるべきは課税所得に加えた金額に対して、実質的に何%の税率となっているかである。

例として、元の課税所得が300万円、そこに上場株式由来の配当所得50万円を加えるケースを考えてみよう。

まず、元の所得税額は202,500円である。330万円未満の区分は税率10%、控除額97,500円なので、

  • 3,000,000 * 0.1 - 97,500 = 202,500

そこに50万円を加えた場合、所得税の区分が変わるため税率20%、控除額427,500円となる。このときの所得税の合計は272,500円である。

  • 3,500,000 * 0.2 - 427,500 = 272,500

したがってこの差額7万円が、50万円の配当所得にかかる実質的な所得税と考えられる。7/50 = 14%なので、この時点ですでに1%分(5千円)の節税効果がある。上場株式の配当なので控除が10%適用でき、実質的な税率は14-10=4%まで下がる。したがってこのケースは確定申告をすれば50万円*(15-4)% = 5万5千円の還付金が期待できるということになる。

要するに、配当所得にかかる実質的な税率が所得税源泉徴収の税率(上場株式なら15%)を下回るかどうかという原則に立ち返って考える必要がある。実質的な税率は元の課税所得と加える金額、配当控除の割合の組み合わせによって異なる。先の例のように組み合わせによっては配当控除が0%であっても節税効果が出る場合がある。

(元の)課税所得の合計が900万円を上回っていれば確定申告しても有利にならない(損益通算が無いならば)というのは正しい。ただ、配当所得と合わせた課税所得が900万円を超える場合でも確定申告すると有利になるケースはある。また、投資信託など、上場株式以外の配当があれば配当控除が配当所得の10%を下回り、900万円以下でも必ずしも確定申告することが有利とはならない場合がある。

配当にかかる実質的な税率

まず、配当控除を考慮せず、元の(配当所得を含まない)課税所得と配当所得の組み合わせから実質的な税率を計算したものを図示する。

もし実質税率が15%未満となる区分に当てはまるなら、配当控除の率に関わらず総合課税とすることで有利となる。合計の課税所得が330万以下の場合は当然だが、配当所得と合わせて330万を超える場合でもここに当てはまるケースがそこそこある。

また、実質税率が25%未満となる区分配当控除が10%であれば総合課税にすると有利となる。合計の課税所得が900万円を超えてもここに当てはまるケースは割とある。ただ、課税所得が1000万円を超えてくると配当控除の率が下がるので、1000万を超えるケースではそれほど有利ではなくなったり不利になる可能性がある。また、配当控除が10%となるのは上場株式等の配当の場合なので、投資信託や海外株式が含まれるなら配当全体としてみた控除率が10%よりも低くなる。この場合は総合課税にすると不利になる可能性もあるので、配当控除の率が実質的に何%になっているかも含めた考慮が必要である。

いくら返ってくるのか

配当控除なしの場合と、配当控除10%を差し引いた場合の差引額を計算した。

※課税総所得が1000万円を超えると配当控除の率が変わり計算が煩雑となるため、1000万以下のケースのみ表示した。

配当控除+総合課税の影響は結構大きいので、配当所得が多少あるなら確定申告が手間でもやってみる価値はあるだろう。

コード

上記プロットは次のスクリプトで作成した。

gist.github.com