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農業用マルチの利用目的と種類別の効果

Agriculture

マルチとは

地温上昇促進・抑制、雑草防除、ドロの跳ね上がり防止など、作物栽培に対し好適な土壌環境を作るためにプラスチックフィルムなどの資材で土壌表面を覆うこと、あるいは覆う資材のことを「マルチ」と呼ぶ。
もともとは稲わらや牧草を株元に敷いていたのが始まりとされるが、マルチを利用した栽培が急激に広まったのはポリエチレンが国産化された1958年以降と言われている。

マルチの性質より異なる効果

地温の上昇/抑制、雑草発生抑制、害虫忌避といった効果はマルチの種類によって異なるため、それぞれの性質を押さえて目的に適合したマルチを選択することが重要である。
ざっくりとまとめるとこの表のようになる。
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より細かい話は以下。

マルチによる地温制御

ポリエチレン製のマルチ(ポリマルチ)は地温を上昇させ、作期を前進させる目的で利用される場合が多い。ポリマルチが急速に普及した理由も、この作期前進によるところが大きい。そこで、まずは地温に対する効果に着目してみよう。
マルチ下の地温は、高い方から順に概ね以下のようになる。基本的には光線の透過量が多いほど地温上昇効果が高いと考えれば良い。
透明>赤外線透過(赤紫)>緑>黒>シルバー≧白>無被覆≒白黒ダブル(白色を上)>紙マルチ・有機物マルチ

  • 透明マルチ:最も地温上昇効果が高いのは透明マルチである。太陽光線によって地表面が直接暖められるが、土壌からの水分蒸発が抑えられるために潜熱損失が無い。
  • 赤外線透過・緑:これらの半透明マルチは光を透過して地温を上昇させつつ、植物が光合成に利用しやすい赤・青色光をカットすることで抑草効果も狙っている。透明ほどではないが地温上昇効果は高い。ブルータイプもある。
  • 黒:マルチ自体は光線を吸収して高温となるが、その熱は大半が空中へ失われる。そのため、地温上昇効果はそれほど高くない。黒マルチの主目的は抑草である。
  • シルバー:白より反射率が高い様に見えるが、通常の製品であればどちらも60%程度で変わらない。なぜシルバーの方が地温が高いかというと、シルバーは長波放射透過率が低いため、夜間の地表面からの放射冷却を抑えるからである。なお、ここから下に記述されているマルチは地温上昇抑制目的で利用される。
  • 白:主たる目的は地温上昇抑制であるが、潜熱損失が抑制される結果、無被覆よりは地温が若干高くなる。ただし、土壌が乾燥していると無被覆では日中に高温となる場合があるため、白の方が地温が下がる場合もある。
  • 無被覆:土壌に水分がある場合と無い場合で異なるが、作物が栽培されている程度の水分を含んだほ場であれば、潜熱損失があるためポリマルチを行った場合よりも地温は低い。
  • 白黒ダブルマルチ:白マルチに黒マルチを裏打ちしたもので、白単体よりも放射透過率が低いため、地温は無被覆と同等か無被覆以下である。
  • 紙マルチ・有機物マルチ:蒸発による潜熱損失を妨げず、かつ地表面への直射光を遮るので地温低下効果は最も高い。有機物マルチとは敷きわらやヘアリーベッチ、マルチムギなどの緑肥である。これらは使用時期が早過ぎると地温が高まらず生育を抑制する場合もあるので注意が必要である。
抑草効果

地温制御以外に重要な役割が抑草である。抑草効果は基本的には光線透過量が低いほど高いため、地温上昇効果とトレードオフになりがちである。

  • 透明:新たな雑草種子飛来は抑えられるものの、雑草が生えやすい。露地で使用する場合は除草剤の併用を考えなければならない。
  • 赤外線透過・緑:上述の通り、地温上昇効果と抑草効果の両方を狙ったものだが、どちらも中途半端になってしまう場合も多い。最近の光線選択性の高いものには効果の高いものも見られる。
  • 黒:抑草効果が高く、基本的に雑草は生えない。
  • 白・シルバー:ある程度光を通してしまうので、そこそこ雑草は生えてしまう。
  • 白黒ダブル:黒同様に高い効果がある。
  • 紙・有機物:物にもよるが、あまり期待はできない。紙については破れなければ効果が期待できるので、施設やトンネル内では有効。
  • 無被覆:生え放題である。
害虫対策

害虫の中には反射光を嫌うものがあり、特に露地栽培でウイルスを媒介して問題となるアブラムシ類に対しては撹乱効果が高い。また、アザミウマ類やコナジラミ類に対しても反射光による効果が期待できる。
反射光による害虫防除効果が期待できるのは、白、シルバー、黒マルチにシルバーのストライプ加工をしたものである。
その他、タイベックなど特に反射率の高い資材は害虫に対する効果も高いが、高価であるため複数年の利用が必須である。
いずれも植物体が茂ってマルチを覆うようになったり汚れや劣化で反射率が低下すると効果は低下する。
なお、一般的には地温上昇抑制と害虫対策のため、反射マルチは盛夏期に利用されることが多いが、施設栽培などでは過日照を補う目的であえて冬季に利用する場合もある。

マルチ全般に概ね共通する効果

土壌保護、病害低減、土壌水分安定、肥効安定といった効果については、程度の差はあれ、どのマルチでも概ね共通して期待することができる。

土壌保護

いずれのマルチでも期待できる効果で土壌表面が物理的に保護されることで、耕起直後の柔らかい土壌の状態を維持できる。

病害低減

泥跳ねが低減されるためいずれのマルチでも効果が期待できる。
ただし、白絹病は未熟有機物が発生を助長するため、稲わらなどの施用で被害が拡大する場合もある。白絹病は多犯性病害でもあるため、発生ほ場では注意が必要である。

土壌水分量の安定

いずれのマルチでも裸地よりは効果が期待できる。
有機物マルチでは降雨後の水分量は多く、乾燥が早いが、裸地に比べると変化は緩やかとなる。

肥効の安定・促進

地温上昇効果の高いマルチでは土壌中の微生物活性が高まるため、主に有機質肥料の肥効が高まる。
また、降雨による流亡を抑制できるため、裸地より3割程度の減肥が可能である。

参考文献

  • マルチ一般の性質について…日本施設園芸協会『五訂 施設園芸ハンドブック』
  • マルチの種類による地温の違い…久保研一『野菜・地温による生育のちがいと土壌管理』(農業技術大系 土壌施肥編 第1巻)
  • マルチと肥効の関係…岩田均『マルチの有無と施肥法の違い』(農業技術大系 野菜編 第6巻)