][Meteorology] 高層観測、レーダー観測、気象衛星観測の知識

レーウィンゾンデ(ラジオゾンデ)観測

レーウィンゾンデ観測の方法
  • レーウィンゾンデ(ラジオゾンデ):ヘリウムを充填したゴム製気球に観測機器を取り付けたもの。上空の気温、湿度、気圧、風向、風速などを観測する。午前9時と午後9時の2回観測する。気球を放つのは観測時刻の30分前である。気球は6m/s程度の速度で上昇する。高度30km程度で気球は破裂し、パラシュートで落下する。風に流されるが、データは観測所真上のものとして取り扱う。
レーウィンゾンデ観測の気象要素
  • 気温:太陽放射の影響を考え、日射補正を行なって観測値とする。補正幅は上空ほど、また上昇速度が遅いほど大きい。夜間は補正を行わない。
  • 湿度:気温-40度以下になった場合は観測しない。報告は湿数。
  • 気圧:気圧から層厚の式を用いて高度を計算する。GPSゾンデの場合は人工衛星からの情報により位置を3次元的に解析できる。
  • 風向・風速:高度と角度から水平面上の位置を計算し割り出す。GPSゾンデの場合は気球の位置を解析し、水平移動距離から速度を計算する。
ラジオゾンデ観測の場所

2012.4.1時点では、気象庁は全国16箇所の気象官署や昭和基地、海洋気象観測船でラジオゾンデを用いた高層気象観測を行なっている(気象庁 | ラジオゾンデによる高層気象観測)。

気象レーダー観測

気象レーダー観測の基本原理
  • レーダー観測:電波を目標物に発射し、反射してくる電波の強度と経過時間から目標物の像や距離を求めるもの。
  • ドップラーレーダー:移動する物体に電波があたって反射する場合に周波数が変化する性質を利用して目標物の移動速度を求めるもの。
  • 気象レーダー:気象レーダーアンテナからパルス状に発射された3cm〜10cm程度の波長の電波が降水粒子にあたり、散乱(後方散乱)してアンテナに戻ってきたときの強度や時間を解析して降水粒子の範囲や強度を求める。パルス幅は長いほど目標降水粒子までの距離の解析精度が低下する。気象庁のレーダーでは2.5μsのパルスを使用。
レーダー方程式の意味

以下のレーダー方程式により求められう電波強度が大きいほど降水強度が強いことを意味する。

  • :平均受信電力。後方散乱を受けてアンテナに戻ってくる平均電波強度。
  • :レーダー反射因子。後方散乱しやすい物質ほど大きくなる。水と氷では水のほうが5倍電波を後方散乱しやすい。
  • :大気ガスによる減衰。
  • :レーダーからの距離。平均電波強度は距離の2乗に反比例する。
  • :電波の波長。平均電波強度は波長の2乗に反比例する。波長が短いと後方散乱は強い。
  • :パルス幅。パルス幅は長いほど平均電波強度が強くなるが、前述のように距離精度が悪化する。

レーダー方程式では大気ガスによる減衰は考慮されているが、途中に別の降水があった場合の減衰は考慮されていない。

電波の後方散乱と降水粒子の関係

後方散乱と降水粒子の関係は次式で求められる。

  • :後方散乱強度
  • :降水粒子の直径

後方散乱強度が降水粒子の直径の6乗に比例するために、同じ降水量でも細かい粒子が多くある場合より大きな粒子が少ない方が後方散乱強度は強くなる。
また、この近似式は降水粒子がレーダーの波長よりも十分に小さい場合に成立する。ひょうや大型の雪片などは観測できない。

気象レーダーの性質と特徴
  • 設置場所:高いほど探知距離が大きくなる
  • 波長:長いほど大気ガスによる減衰が小さく遠くまで観測できる
  • 地球の曲率の影響:大気の密度は下層ほど大きいので電波はわずかに下方向へ曲がりながら進むが、地球の曲率の方が大きいため、上方向へ逸れるように進行する。
  • 高さの影響:レーダーは高度2km付近を目標に射出される。2km付近の降水粒子は地表に届く前に蒸発する可能性があり、実際の降水強度よりも強い値を観測する場合がある。地表面が乾燥していると特に顕著である。
レーダーの使用上の注意
  • グランドエコー:山岳や地形による後方散乱から生ずるレーダーエコーをグランドエコーと呼ぶ。概ね除去できるが完全ではない場合もある。
  • シークラッター:波浪による波しぶきがレーダーエコーとして観測されたもの。これは除去することができない。
  • エンゼルエコー:大気の屈折列の乱れによるエコー。晴天エコーとも。これも除去できない。
  • ライトバンド:雪の表面が溶けると、通常の降水より表面積の大きな状態となる。このようにして生じたエコーの強い部分をブライトバンドと呼ぶ。
  • 降水が雪か雨かはレーダーでは判別できない。
  • レーダー反射因子Zと降水強度Rの関係をZ-R関係と呼ぶ。値は降水の性状により異なる。
  • シャドウ域:障害物などによって不自然にエコーの弱くなっている部分。現実の降水強度を表さない。

気象ドップラーレーダー観測

ドップラーレーダー観測の原理
  • 発散場:発散の奥側では周波数が負、手前側では周波数が正方向へ変化する。
  • 収束場:収束の奥側では周波数が正、手前側では周波数が負方向へ変化する。
  • 低気圧性循環:低気圧の左側で正、右側で負。
ウインドプロファイラ観測
  • ウインドプロファイラ観測:地上からドップラーレーダを用いることで高層風の観測を3次元的に行うもの。10分間隔で観測できる。
  • WINDAS:ウィンドプロファイラの観測網を使った局地的気象監視システム
  • 電波の波長と観測:ウィンドプロファイラでは22cmというかなり大きな波長を用いる。波長の1/2程度の大気の不均衡が存在するため観測ができる。
  • 降水がある場合:降水がある場合はレイリー散乱が起こるためウインドプロファイラの観測データは降水粒子の動向を観測することになる。水平方向の移動はほぼ風速と等しいが、鉛直方向の動きは鉛直流とは異なる。
  • 観測高度:ウインドプロファイラ観測は大気の乱れ、水蒸気密度の不均衡を利用して観測する。そのため、大気の水蒸気量が少ない冬季には観測高度が低くなってしまう。

海上気象観測と特殊観測

波浪の知識
  • 波浪:風によって直接生じる波。風向と卓越波向が概ね一致し、卓越周期が短い。
  • うねり:台風や発達した低気圧によって生じた遠方から伝わる波浪。波浪よりも波長が長く卓越周期も長いので減衰が起きにくい。卓越波向と風向きは必ずしも一致しない。
  • 波高:波の谷から峰までの高さ。
  • 有義波高:100以上の連続して観測した波の波高のうち上位から1/3の平均値を言う。天気予報で利用する波浪情報。浅瀬で波高が高くなる影響の考慮はしていない。また、1/1000程度の頻度で有義波高の2倍程度の波が生ずることにも注意する。
  • 波高の発達:風向の変化が小さく風走距離が長いと波高が発達しやすい。
高潮の知識
  • 高潮:波ではなく、潮位そのものが上昇する現象。気圧低下による吸い上げ効果や、海岸に強い風が吹き付けることによる吹き寄せ効果による。
  • 地形:風上側に開いたV字、U字の湾や、遠浅の海岸は顕著な高潮が起こりやすい。
  • 天文潮:1日ほぼ2かいずつ満潮と干潮がある。それぞれの潮位は一定ではなく、月の引力の関係で大潮と小潮がある。大潮の満潮時に台風が接近しているような場合は特に注意が必要である。
オゾンの知識
  • オゾンホール:南極海では例年10月に成層圏のオゾン密度が著しく減少する。南極では大規模山岳がなく偏西風の蛇行が少ないため、極渦という現象が発生してオゾンの輸送が少なくなる。オゾンホールは南極ほどではないが北極でも3月頃に出現している。
  • 観測にはドブソン分光光度計を用いる。世界の約100地点で観測が行われている。
    • 太陽の直射日光を利用した観測:高精度。
    • 天頂光観測:直射日光が少ない場合は散乱光を利用。
    • 月光観測:極夜の場合は月光を利用。

気象衛星観測

代表的な気象衛星の種類
  • 静止気象衛星(ひまわり):2005年6月28日から運輸多目的衛星MTSAT-1Rによる気象衛星観測の運用が開始されている。俗称としてひまわり6号と呼ばれている。ひまわり6号は東経140度の赤道上空3万6000kmにある。
  • 極軌道衛星(NOAA:アメリカ):両極地方の上空約840kmを結ぶ軌道を周回する衛星。周回するのに必要な時間は約100分で、同じ地点は1日にほぼ2回通過する。よって同じ地点では12時間おきにデータが取得できる。水平観測範囲は2500km程度である。
気象衛星観測で用いる波長帯
  • 赤外画像:テレビの天気予報で見る気象衛星画像はほとんどが赤外画像。低温部ほど相対的に白く写る。
  • 可視画像:可視画像では厚い雲ほど白く写る。また、雪氷域も白く写る。ただし、太陽光が斜めから射す朝夕は暗く写りやすい。日中しか利用できない。
  • 水蒸気画像:水蒸気が吸収しやすい6.5〜7.0μmの波長帯。この領域の赤外放射が少ない(=水蒸気が多い)と白く写りやすい。上層の水蒸気量解析に用いられる。白いほど上層の水蒸気量が多いと判断する。
  • 3.7μm画像:ひまわり6号から新しく観測されている。赤外画像と可視画像の中間的な性質をもつ。夜間の極めて地表付近の雲(霧含む)の解析ができる。地表面付近に雲が存在する場合、地表面温度に対応する輝度よりも白く見える。
各画像の輝度と雲域の判断要素
  • 可視画像(雲の厚みを判断)
    • 非常に白い:非常に厚い雲
    • 白い:厚い
    • 明灰色:やや厚い
    • 暗灰色:薄い(単層)
  • 赤外画像(雲頂高度を判断)
    • 非常に白い:圏界面付近
    • 白い:上層
    • 明灰色:中層
    • 暗灰色:下層
    • 写っていない:極めて低いか地表面
  • 水蒸気画像(上層の水蒸気量を判断)
    • 明域:湿潤
    • 暗域:乾燥
雲の種類による画像の特徴
  • 層雲や霧:高度が低く赤外画像ではほとんど映らない。可視画像では一様に滑らかで比較的白い。
  • テーパリングクラウドなど発達した対流性の雲:上層まで及ぶ対流性の雲であるため、赤外画像ではっきりとした輪郭で非常に白く写る。
  • ジェット巻雲:雲頂高度は高く赤外画像で白く写る。
  • バルジ:中上層の層状性の雲からなり、赤外画像で温帯低気圧の北側から北東側に膨らむ形で白くなめらかに写る。温帯低気圧は発達中と判断できる。
  • 水蒸気画像からのジェット気流の判断:明域と暗域の境界(バウンダリー)から極側に50〜100kmの位置にジェット気流はは存在する。
  • 水蒸気画像からの上層過冷渦の解析:低気圧性の循環を持つ暗域として存在する。500hPa天気図では寒気核と低気圧性循環の風が判断できる。

アメダスと観測東経

アメダス(地域気象観測システム)の利用法
  • アメダス:Automated Meteorological Data Acquisition Systemの略。「降水量」「風向・風速」「気温」「日照時間」の4つの気象要素を児童観測している。平均21km間隔で設置されており、全国に約850カ所ある。「降水量」のみの観測では全国で約1300カ所(17km間隔)である。また、280カ所では積雪の観測も行う。観測は10分間隔で自動的に行われ、公衆電話回線により5分以内にアメダスセンターに集められてチェックを受け、気象資料統合処理システムに通報され、毎正時から6分以内にユーザーへ配信される。アメダスの観測データには気象官署での観測データも含まれる。
  • 気象官署:気象庁気象研究所気象衛星センター、高層気象台地磁気観測所気象大学校海洋気象台、管区気象台、地方気象台、航空気象台、測候所などを言い、ほとんどの気象官署で観測業務が行われている。
観測統計・対象期間表記・雨風の表現
  • 代表的な観測統計の手法
    • 気圧(日平均):気象官署では毎正時の平均値。アメダスでは観測なし。
    • 気温(日平均):気象官署、アメダスともに毎正時の平均値。
    • 風速(日平均):気象官署では1日の風程(大気の流れた距離)を86400秒(1日)で割る。アメダスでは毎正時の平均値。
    • 降水量(日降水量):気象官署、アメダスともに毎正時の観測値の合計。
    • 降水量(最大1時間雨量):気象官署では前日23:30から翌日00:30までの間の任意の連続する1時間の最大値。アメダスでは00:10から24:00までの10分毎の観測値の任意の連続する1時間の合計値の最大値。
  • 3時間毎の対象期間表記
    • 未明:0〜3時(旧称:午前3時頃まで)
    • 明け方:3〜6時
    • 朝:6〜9時(旧称:朝のうち)
    • 昼前:9〜12時
    • 昼過ぎ:12〜15時
    • 夕方:15〜18時
    • 夜の初め頃:18〜21時(旧称:宵のうち)
    • 夜遅く:21〜24時
  • 雨量の表現
  • 風速の表現
    • やや強い風:10-15m/s
    • 強い風:15-20m/s
    • 非常に強い風:20-30m/s
    • 猛烈な風:30m/s以上
気象観測統計
  • 平年値:2013年時点では1981年から2010年の間の30年間の平均値として求めている。10年毎に更新されている。次回は2021年に更新。平均を求める際、極めて高いデータや極めて低いデータは除外する場合がある。
  • 寒候期:10月から3月(寒候期予報では10月から2月を用いる)
  • 暖候期:4月から9月(暖候期予報では3月から8月を用いる)
  • 積雪・降雪の深さ:冬季の季節を暦の中心とし、8月1日から翌年の7月末までの期間を年統計の期間とする。
  • 日界:深夜00:00は前日の24:00として扱う。