中層大気の運動

中層大気の特徴

気温の特徴
  • 10km以下(対流圏):高緯度地域ほど気温が低い。
  • 10〜20km(対流圏界面付近):低緯度の方が低温。赤道付近は対流圏が厚く、温度低下が16km付近まで続くため。
  • 20km以上(成層圏):夏極の高緯度ほど気温が高く、冬極の高緯度ほど低い。日射量の差による。夏極では白夜と呼ばれる太陽の沈まない期間がある地域がある。
  • 70km以上(中間圏):夏極ほど低温で冬極ほど高温。冬極では偏西風が活発化し、熱輸送が盛んになるためと考えられている。
風の特徴
  • 10km以下(対流圏):高緯度地域ほど気温が低いため、温度風の関係により上層ほど西風が強まる。
  • 70km以上:上層ほど高温となるため、東風の温度風が加わることで西風は弱くなっていく。夏半球では70km付近までは東風が卓越するが、70km以上では高緯度ほど気温が低くなるため温度風は再び西風となる。
  • 100km以上:温度風は東風が卓越し、上空ほど強くなる。夏半球では上空ほど西風が強くなる。
プラネタリー波の鉛直伝播

プラネタリー波は冬の成層圏、中間圏にも存在する。成層圏は空気密度が低いため、プラネタリー波の波長は増幅して伝わる。
大規模山岳の多い北半球の方が成層圏へ伝播しやすい。
東風が卓越しているとプラネタリー波が伝播できないため、夏半球の上部成層圏へはプラネタリー波は伝播できない。

準2年周期振動

赤道付近の下部成層圏には東風と西風が26ヶ月周期で交互に現れる。これを準2年周期振動(QBO)と呼ぶ。
QBOはプラネタリー波の鉛直伝播で説明できる。
QBOは最初上層に発生し、次第に下層へ降りてくるように見える。

その他の大気の諸現象

マッデン・ジュリアン振動

赤道付近の低緯度の対流圏に発生する大気変動。40日周期振動とも呼ばれ、30〜60日周期の変動をする。
水平規模4万km、鉛直方向は対流圏全域にも及ぶ場合があり、ゆっくりと東進する。
エルニーニョなどのテレコネクションに関係があると言われている。

ケルビン波と混合ロスビー波

赤道付近の下部成層圏に見られる特徴的な波動を赤道波と呼ぶ。大量の太陽放射と弱いコリオリ力により赤道付近には活発な対流があり、これが赤道波を生み出す。代表的な赤道波としてケルビン波とロスビー波がある。

  • ケルビン波:大気、海洋中に起こる大規模波動。赤道面でコリオリ力が逆転することにより発生する。低緯度の下部成層圏に出現し、東西のみに動く。東風の時のみ鉛直方向へ伝播し、準2年周期振動に関係すると言われている。波長4万km、周期20日
  • 混合ロスビー重力波:波長1万m、周期5日で20m/s程度で西進する。これも準2年周期振動に関係するといわれている。
ケルビン・ヘルツホルム波

密度の異なる流体層の接する面で、2つの流体に速度差があると生じる不安定波動。
大きな風の鉛直シアを持つ気相で小さな波動が成長して波打つことがあるが、これがケルビン・ヘルツホルム波である。
大気の成層状態の安定性と風速シアの比をリチャードソン数と呼ぶが、この値が小さいほど波動が起きやすい。
前線面を挟んだ上下層で境界面が波打ち、波状に雲が出ることが有る。

異常気象と気候変動

異常気象と気候変動の外的要因

天文的要因
  • 公転軌道の変化:地球の公転軌道は数万年単位で円形から楕円形まで変化をしている。現在は近日点と遠日点の放射量の差は7%程度だが、離心率の最大値である0.068の場合は近日点と遠日点で放射量に30%もの差が生じる。この場合、季節差は北半球で小さく、南半球で大きくなる傾向がある。
  • 地軸の変化:地軸は4.1万年周期で22.1度から24.5度の間を振動している。傾斜角が大きくなると季節変化は増大する。
地学的要因
  • 火山噴火:噴火は多量の水蒸気、二酸化炭素、亜硫酸ガス、火山灰を放出する。水蒸気や二酸化炭素温室効果気体として作用する。亜硫酸ガスは硫酸エーロゾルに変化して滞留を続け、地表面への直達日射量を現象させる。これを日傘効果と呼ぶ。この際、成層圏の気温は上昇するが対流圏の気温は低下する。
  • 海流の変化:海洋は大気に比べると熱容量がはるかに大きく、大気にとっての熱源となる。よって、海洋の変化は大気にも影響をおよぼす。
人為的要因

異常気象と気候変動の内的要因

エルニーニョ現象ラニーニャ現象

太平洋赤道域の中央部から南米ペルー沿岸にかけての地域で海面水温が継続して上昇する現象をエルニーニョ現象、逆に平年より低くなる現象をラニーニャ現象と呼ぶ。
平年には太平洋赤道域下層には貿易風が吹き、界面には西向きの海流が発生して西武太平洋側へ温かい海水を運ぶ。このとき、インドネシア付近では暖水層が厚くなるが、逆にペルー沖では下層から冷水が湧き上がってくる(湧昇)。その影響でペルー沖の海水温は気温に比較して低くなる。また、インドネシア側の海水面は数十cm高くなる。
温かい海面水温の上では上昇気流が発生しやすく、積雲対流で発生した潜熱は大気を加熱する。その結果低気圧が発生しやすくなる。逆に冷たい海面水温の下では高気圧が発生しやすくなる。
よって、平年時にはペルー沖では高気圧が発生し下降気流が、インドネシア付近で低気圧が発生し上昇気流が起き、上層では西風が、下層では東風が発生する。この循環をウォーカー循環と呼ぶ。

  • エルニーニョ現象貿易風が弱まると西向きの海流も弱まり、ペルー沖の冷水湧昇も弱まる。結果として海面水温が上昇し、積雲対流が活発な領域は東へずれ、太平洋中部付近で活発となる。エルニーニョ時には日本では暖冬、冷夏の傾向がある。
  • ラニーニャ現象:貿易風が強まると、ペルー沖の冷水湧昇も強まる。結果としてインドネシア沖の海面水温は上昇し、積雲対流が活発になる。さらに、ウォーカー循環を強めて貿易風が強い状態が維持されやすくなる。
その他の要因
  • 南方振動:太平洋赤道域の地上気圧は東部で下がれば西部で上がる。これを南方振動と呼ぶ。
  • テレコネクション:大気の運動変化が隣接する大気の気象に影響をおよぼすことでより遠くの気象現象まで波及すること。その概念。
  • インデックスサイクル:中・高緯度偏西風(ジェット気流)は1ヶ月程度の周期でゆるやかな蛇行の東西流と激しい蛇行の南北流に変化する。これをインデックスサイクルと呼ぶ。南北流が発達すると、南へ蛇行した際に切離低気圧、北へ蛇行した際に切離高気圧を発生させる場合がある。これらの気圧は停滞することが多く、ブロッキング型の大気パターンと呼ぶ。ブロッキング型では2週間程度は暖気や寒気が入り、偏った天候が続く。
  • 海氷や氷床の現象:氷は太陽光を強く反射する(アルベド大)ため、北極海の氷床が大きく減少した2007年夏には海水温度が数度上昇した。
  • 雲量の変化:雲は日射を吸収する効果と日射を遮る効果の両方を持つ。薄い上層雲は温暖化効果が高く、厚い雲や下層雲は地表面温度を下げる効果が大きい。