前回:湿度諸量の計算法(1) - 相対湿度 - - もうカツ丼でいいよな
今回は絶対湿度を中心に解説しよう。「絶対湿度」は日常生活ではあまり聞くことがなく、使うこともない湿度の表現方法だが、概念としては相対湿度よりも理解しやすい。
前回のはじめ、空気の中には水蒸気が重量で1〜3%程度含まれていると述べた。要するに「空気に含まれている水蒸気の重量」を直接示したのが絶対湿度である*1。
今回は絶対湿度および似た概念である混合比、比湿、そしてモル分率の説明をする。
なお、計算式の入力としては基本的に気温、相対湿度を用いる。
1. 絶対湿度(absolute humidity 工学:水蒸気密度)
単に絶対湿度といえばおそらくこちらを示す場合の方が多い*2。
定義は
湿り空気1m3中に含まれる水蒸気質量。
であり、単位としてはg/m3またはkg/m3が用いられる。
式で表すと、絶対湿度(g/m3)は
- …(1.1)
である。は空気中に含まれる水蒸気の質量(g)で、は空気の体積(m3)である。
ここで理想気体の状態方程式
- …(1.2)
を考える。:圧力(hPa)、:モル数(mol)、:気体定数(0.08314462hPa m3 K-1 mol-1)、:絶対温度(K = ℃ + 273.15)である。
いま注目したいのは水蒸気圧(hPa)なので、とおき、式(1.2)を式(1.1)へ代入する。
- …(1.3)
水の質量数を(18.01528 g/mol)とすると、モル数は次のように表現できる。
- …(1.4)
式(3)へ式(4)を代入する。
- …(1.5)
式(5)に具体的な数字を入れていこう。
- = 18.01528
- = 0.08314462
なので、
- …(1.6)
である。なお、はセルシウス度(℃)。
計算して、
- …(1.7)
となる*3。
さらに、相対湿度(%)の定義
を思い出すと、
であり、式(1.7)に代入すると、
- …(1.8)
となる。式(1.8)を用い、気温、相対湿度が入力となるようにRで関数を定義すると
abs.hum <- function(t, U){ ## 入力:t…気温(℃)、U…相対湿度(%) ## 出力:絶対湿度(g/m^3) 2.166740 * 10^2 * U * GofGra(t)/(100 * (t + 273.15)) }
となる。なお、関数GofGraは前回定義した飽和水蒸気圧を気温から求める関数である。
25℃、50%RHの時の値は11.5g/m3
2. 混合比(mixing ratio 工学:絶対湿度)
混合比は次のように定義される値である。
ある湿度の空気中に含まれている乾き空気1kgに対する水蒸気の質量。
空調分野などではこちらが絶対湿度と呼ばれることがあるらしい。
絶対湿度が体積比であったのに対し、混合比は重量比である*4。また、分母から水蒸気が除かれているという点も異なる。
定義から分かるように無次元であるが、便宜上kg/kgやg/kgのような単位が使われる。
混合比(kg/kg)を式で表すと、
- …(2.1)
である。ここでは水蒸気の質量(kg)、は乾き空気の質量(kg)である。
式(2.1)は水蒸気の密度(=絶対湿度)を(g/m3)、乾き空気の密度を(g/m3)とすると、次のように書き換えられる。
- …(2.2)
ここで、水蒸気と乾き空気の状態方程式を考えると、水蒸気と乾き空気の密度はそれぞれ次のように表現できる。
- …(2.3)
- …(2.4)
は水蒸気の気体定数で、は乾き空気の気体定数である*5。
式(2.3)、(2.4)を式(2.2)に代入すると、
- …(2.5)
である。乾燥空気と水蒸気の気体定数の比は約0.622である。また、乾き空気の分圧は大気圧(hPa)から水蒸気分圧を引いた値なので、式(2.5)は
- …(2.6)
となる。式(2.6)を元に、気温、相対湿度を入力とする関数をRで定義すると
mix.r <- function(t, U, P = 1013.25){ ## 入力:t…気温(℃)、U…相対湿度(%) ## :P…大気圧(hPa、省略時標準大気圧1013.25) ## 出力:混合比(kg/kg) 0.622 * (U/100 * GofGra(t)) / (P - U/100 * GofGra(t)) }
となる。
25℃、50%RHの時の値は0.0987kg/kg
3. 比湿(specific humidity)
混合比は分母が乾き空気であったが、これを湿り空気としたのが比湿である。定義は以下の通り。
湿り空気1kgに含まれる水蒸気質量。
比湿(kg/kg)を式で表現すると、
である。混合比と同様に計算すると、
となる。実際に式変換をやってみた人はわかると思うが、こちらの方がやや複雑である。
気温と相対湿度を入力としてRで関数を定義すると
sup.hum <- function(t, U, P = 1013.25){ ## 入力:t…気温(℃)、U…相対湿度(%) ## :P…大気圧(hPa、省略時標準大気圧1013.25) ## 出力:比湿(kg/kg) 0.622 * (U/100 * GofGra(t)) / (P - 0.378 * U/100 * GofGra(t)) }
となる。
25℃、50%RHの時の値は0.0978kg/kg
ちなみに、通常の大気であれば比湿と混合比はほとんど値が変わらない。普通の気温の範囲ならば大気圧に対して水蒸気圧はかなり小さいからだ。
そこで、通常の気温の範囲であり、厳密な精度が必要ないのであれば、混合比も比湿も次のように計算してしまってもよい。
4. モル分率(mol fraction)
絶対湿度、混合比、比湿は質量、体積を基準に定義された値である。
それに対し、モル分率は水蒸気と湿り空気のモル数の比を基準に定義される。定義は以下のとおり。
空気中の水蒸気の物質量()と、空気全体の物質量()との比
無次元だが便宜的に単位mol/molを用いる場合が多い。
ドルトンの法則(cf.ドルトンの法則 - Wikipedia)によると、圧力比は物質量の比と等しいので、モル分率は
と表現できる。
定義は物質量同士の比だが、計算上は物質量よりも圧力から求めたほうが簡単である。
温度、相対湿度を入力としてRで関数を定義すると以下のようになる。
mol.frac <- function(t, U, P = 1013.25){ ## 入力:t…気温(℃)、U…相対湿度(%) ## :P…大気圧(hPa、省略時標準大気圧1013.25) ## 出力:モル分率(mol/mol) U/100 * GofGra(t)/P }
25℃、50%RHの時の値は0.0156mol/mol。
参考文献まとめ
- 湿度と蒸発―基礎から計測技術まで=上田政文『湿度と蒸発−基礎から計測技術まで』
- 新訂 農業気象の測器と測定法=日本農業気象学会編『新訂 農業気象の測器と測定法』
*1:絶対湿度について話をするとき、若干注意を要する点がある。湿度諸量を表す用語には一部の工学系分野とそれ以外で異なっているものがあるのだが、この「絶対湿度」に至っては同じ名前で別の概念を表している。絶対湿度という単語が出てきた場合は、定義を確認する必要があるし、自分が記述する側である場合は定義を述べておくべきだろう。
*2:Wikipedia(湿度 - Wikipedia)では明示的に「容積絶対湿度」という呼び方をしている。
*3:次のような表現も使われるが、丸め誤差程度の誤差を除いて実質的に同じ式である:。式は上田(2000)による。
*4:Wikipediaでは重量絶対湿度という表現が使われている。
*5:この各気体に固有の気体定数という概念は気象学の分野でよく使ものだが、詳しくは大気の熱力学 - 理想気体の状態方程式 - もうカツ丼でいいよななどを参照。